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医学書

Guyton 生理学 71 章 食事のバランス

3つの栄養素lg当たりの平均的な生理的に利用可能なエネルギーは次の通りである。

炭水化物  4

脂肪 9

タンパク質 4

 

タンパク質の1日の所要量は平均3050gである:

毎日20 30gの体タンパク質が分解されて,他の体化学物質をつくり出すのに使われる。そのため,すべての細胞は分解される分に代わる新しいタンパク質をっくり続けなくてはならず,この目的のため,食事からのタンパク質の供給が必要である。平均的な人では, 1日のタンパク質摂取が3050g以上であれば,タンパク質の正常な備蓄を維持することができる。

炭水化物と脂肪は“タンパク質節約物”として働く

食物に炭水化物と脂肪が豊富に含まれると,体エネルギーのほとんどすべてがこの2つの栄養素から得られ,タンパク質はほとんど用いられない。そのため,炭水化物と脂肪の両者をタンパク質節約物proteinsparesという。

逆に,飢餓状態で,炭水化物と脂肪が枯渇してしまうと,貯蔵体タンパク質がエネルギー源として急速に消費され, 1日のタンパク消費量が正常では30 50gであるのに対し,時には1日に数百gにもなる。

 

<食物摂取と貯蔵エネルギーの調節>

通常,摂取されたエネルギーの約27%のみが細胞の機能系に至り,その多くが最終的には,タンパク質代謝,筋活動,身体の種々の器官や組織の活動の結果生じる熱に変換される。過剰なエネルギー摂取は,主に体脂肪として貯蔵される。一方,エネルギー摂取の不足は,エネルギー消費量が最終的にエネルギー摂取量に等しくなるか,あるいは,個体死が起こるまで、体重減少を引き起こす。

 

<神経中枢による食物摂取の調節>

空腹hungerという感覚は,食物への欲求や.その他,胃の律動的収縮.不穏状態などの生理作用と関連しそのため.人は適当な食糧を探し求めるようになる。人の食欲appetiteは,しばしば特定の種類の食物に対する願望であり.また食べるべき食物の質を選ぶのに有用である。食物に対する欲求が満たされた場合,満腹satietyいう感覚が生じる。これらの各感覚は,環境や文化的な要因によっても.さらには,脳,特に視床下部の特定の中枢に作用する生理的調節系によっても,影響を受ける。

視床下部に空腹と満腹の中枢がある:

視床下部のいくつかの神経中枢が食物摂取の調節に関与している。視床下部外側核は摂食中枢として機能し,この領域を刺激すると動物が食欲に食べるようになる(過食症hyperphagia)。逆に外側視床下部を破壊すると,食物の欲求がなくなり,進行性の飢餓衰弱inanitionという顕著な体重減少,筋力低下.代謝の低下を特徴とする状態となる口外側視床下部の摂食中板は,食物探索の衝動を喚起することによって機能している。視床下部腹内側核は満腹中枢として機能する。この中枢は栄養的満足感を与え,摂食中枢を抑制すると考えられる。この領域を電気刺激すると,完全な満腹感を起こすことができ,大好きな餌を前にしてさえ,動物は食べようとしなくなる(無摂食症aphagia)。逆に視床下部腹内側核を破壊すると,食欲に食べ続け,動物は極端に肥満し,時には標準体重の4倍にも達することがある。

 

<食物摂取量の調節に働く要因>

食物摂取量の調節は,主として, I回の食事において食べすぎを防ぐことにかかわる短期的な調節short-termregulationと,主として,生体内のエネルギー貯蔵量を正常に維持することにかかわる長期的な調節long-termregulationとに分けることができる。

 

<食物摂取の短期的調節>

Short-Term Regulation of Food Intake

人が飢えによって,食欲にかつ速く食べさせられた場合,その人が十分食べたときに,食事を止めさせるのは何だろうか?生体内のエネルギー貯蔵量に変化が生じるような時聞があるはずはなく,また,十分な栄養素が血中に吸収され,摂食抑制をもたらすためには,何時間も必要である。人が食べすぎないこと,また栄養必要量にほぼ見合った量の食事を食べることは重要である。以下に示すいくつかの事項は,この目的のために重要なすばやいフィードバック信号となるものである。

胃揚の充満が摂食を抑制する:消化管,特に胃と十二指腸が膨らむと,腸管壁の伸展による抑制性信号が,主

として迷走神経によって伝達され,摂食中枢を抑制し,食欲を減らす(図71-1

消化管ホルモンが摂食を抑制する:コレシストキニン

口腔内の受容体が食物摂取を検知する

岨鴫,唾液分泌,蝶下,味覚など摂食に関係した種々の“口腔内因子”が口腔を通過した食物量を検知し,ある一定量が通った後に,視床下部摂食中枢が抑制されると想定されている

消化管の充満によって引き起こされる摂食抑制と比べれば,それほど強力ではなく,持続時間も通常わずか2040分間と短い。

 

<食物摂取の中・長期的調節>

Intermediate and Long-Term Regulation of FoodIntake

長い間,飢餓状態においた動物に急に制限せず餌を与えると,通常の量の餌を与えられていた動物よりもはるかに大量に食べる。逆に,数週間過剰の餌を強制摂取させた動物を自由摂食にすると,ほんの少ししか食べない。

このように,生体の摂食調節機構は,身体の栄養状態に応じて変化する。

空腹と摂食の調節についての糖平衡説 glucostatic theory

アミノ酸平衡説aminostatic theory

脂質平衡説 lipostatic theory

 

<肥満 Obesity>

肥満とは体脂肪の過剰であると,定義することができる。体脂肪量の指標として, bodymass index (BMI)が

代用され,以下の式で計算される。

BMI=体重(kg)/身長(m2)

臨床的には, BMI25 29.9kg/m2を過体重, BMI30 以上を肥満と評価する。

男性では体脂肪率25%以上を,女性では体脂肪率35%以上を,通常,肥満と定義している。

摂取エネルギーが消費エネルギーよりも大きいことが肥満の原因である:

9.3Calのエネルギー摂取超過につき,約lgの脂肪が蓄えられる。

体重を減らすために,エネルギー摂取量がエネルギー消費量よりも少なくなければならない。

肥清の原因としての身体活動量の減少と摂食調節の異常

豊富な高エネルギー食(特に高脂肪食)や座りがちな生活様式と符合している。

人によっては,心理的な要因が肥満に関与することがある。

摂食行動が緊張を取り除く手段となり得るようである。

肥満の原因としての神経系の異常

摂食を制御する視床下部の神経路における神経伝達物質やその受容機構に異常があるかもしれない。厳しい食事療法によって,標準的な体重にまで減量した肥満者は激しい空腹感を訴え,それが標準的な人よりはるかに大きいこ

肥満者の摂食調節系のセットポイント”が,非肥満者のそれよりずっと高い栄養貯蔵レベルにあることを示す。

 

<肥満の治療>

肥満の治療には,エネルギー摂取量をエネルギー消費量より減少させて,望ましい体重減少が達成されるまで,負のエネルギーバランスを持続させる必要がある。換言すれば,これはエネルギー摂取量を減らすか,あるいはエネルギー消費量を増やすことを意味する。現行の米国国立衛生研究所(NIH)のガイドラインでは,過体重から中程度の肥満(BMI 25 35kg/m2)の人に対して,1週間に約1ポンド(450g)体重を減らすために 1日の食事を500Cal減らすことを勧めている。BMI35kg/m2以上の人に対しては1日に500 1,000Calのさらに精力的な食事制限を勧めている。典型的には,このような食事制限は,もしそれが達成されて維持されるならば,l週間に約12ポンド(450 900g)の体重減,あるい6カ月後に約10%の体重減をもたらすであろう。多くの減量を試みる人にとって,身体活動量を増やすことも,減量を長期にわたって成功させる要素として重要である。

エネルギー摂取を減少させるために,ほとんどの減量用食品には,栄養価のないセルロースなどが,“かさ”を大きくする目的で,たくさん含まれている。この“かさ”が胃を膨張させるので,いくらか空腹感を和らげる。多くの人以外の動物では,このような処置はその動物の食物摂取をさらに増加させるだけだが,人では食物摂取が時には空腹感によるのと同じくらい習慣によって調節されるため,しばしば自分自身の感覚を欺くことができる。飢餓に関連して,後述のように,ダイエット期間中に,ビタミン不足にならないようにすることが重要である。

空腹度を減少させる種々の薬が肥満の治療で使われてきた。最も広く使われる薬はアンフエタミンamphetamines (あるいはアンフェタミン誘導体)で,これは脳内の摂食中枢を直接抑制する。肥満に対する治療薬の1つにシブトラミンsibutramineがあり,これは食物摂取量を減らしエネルギー消費を増やす交感神経様作用薬である。これらの薬を用いると,中枢神経系を過度に興奮させて人を緊張させ,血圧を上げる危険がある。また,まもなく薬に対して適応してしまい,体重減少は通常510 %を超えることはない。

もう1つのグループの薬は,脂質代謝を変えることによって働く。たとえば,リバーゼの阻害剤であるオルリスタツトは小腸での脂肪の消化を抑制する。これは摂取した脂肪の一部を糞便に失わせて,吸収されるエネルギー量を減らす。しかし糞便への脂肪喪失が,胃腸の不快感という副作用や脂溶性ビタミンの糞便への喪失を起こすことがある。

多くの肥満者が身体活動を増やすことによって減量を達成できる。運動を多く行うほど,毎日のエネルギー消費

費が大きくなり,それだけ急速に肥満が消失する。したがって,強制的な運動がしばしば肥満の治療に不可欠である。肥満の治療のための現在の臨床的ガイドラインは,第一歩として,摂取カロリーを減らすことと合わせて,身体活動を増やすような生活習慣の改善を勧めている。BMI40以上の病的肥満者や, BMI35以上で他の重篤な病気の素因となる高血圧症や2型糖尿病の患者には,体脂肪量を減らすため,あるいは1回の食事で食べられる量を減らすための種々の外科手術を行うことがある。

 

<飽食(飢餓)Starvation>

絶食中の身体組織内のエネルギー源の消耗:組織は,脂肪やタンパク質よりも,炭水化物を優先して,エネルギー基質として利用するが,通常,全身に貯蔵されている炭水化物の量は,わずか数百gである(主に肝臓と筋肉内にグリコーゲンとして蓄えられている)。それは身体機能の維持に要するエネルギーのおそらく半日分を供給できる程度である。そのために,絶食の最初のわずかな時間を除き,主だった効果は組織脂肪とタンパク質が次第に消耗することである。脂肪は生体の主要なエネルギー源である(正常人では,炭水化物のエネルギーの100倍のエネルギーが,脂肪として貯蔵されている)ので,脂肪の消耗速度は,図71-3に示すように.体内の貯蔵脂肪の大部分がなくなるまで変わらずに維持される。

タンパク質の消耗には, 3つの段階がある。最初に速い消耗があり,それから消耗は甚だゆっくりとなり,最後に,再び死の直前に速い消耗が見られる。最初の速い消耗は,容易に動員可能なタンパク質が直接代謝に利用されることにより,あるいは,いったんグルコースへ変換され,主に脳によるグルコース代謝に利用されることにより起こるo 容易に動員可能な貯蔵タンパク質が絶食の早い段階で使い尽くされた後,残りのタンパク質はそれほど容易に消耗しない。このとき,糖新生の速度はそれまでの1/31/5に減少し,タンパク質の消耗の速度は著しく低下する。利用可能のグルコースの減少により,第68章に述べたケトーシスketosisの状態をっくり出す過度の脂肪利用と脂肪の分解産物のケトン体への変換に至る一連の事象が始まる。ケトン体はグルコースと同様に.血液脳関門を越えることができ,脳細胞によってエネルギーとして用いられる。そのために,脳のエネルギーのおよそ2/3がこれらのケトン体,主にFヒドロキシ酪酸から得られる。この一連の事象は.体内の少なくとも一部のタンパク質貯蔵を維持することになる。最終的には,貯蔵脂肪がほとんど使い尽くされ,残っているエネルギー源がタンパク質のみとなるときがくる。そのとき,もう一度.貯蔵タンパク質の消耗が速い段階に入る。タンパク質はまた,細胞機能の維持に欠くことができないので,生体のタンパク質が正常なレベルのおよそ半分にまで消耗すると,通常,死に至る。

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