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医学雑誌 特集号

日本医師会雑誌だけあって 肥満症全体を網羅し、また示唆に富んでいる

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肥満の定義については,欧米ではBMI 30 以上ですが,日本では25 以上という違いがあります.日本の肥満者については,BMI25 以上の割合が男性で約30%,女性で約20%,また欧米で肥満と定義されるBMI30 以上の割合は男性で3.8%,女性で3.2す.

米国ではBMI25以上の割合は男性で70%,女性で60を超え,米国で肥満と定義されBMI30 以上の割合は男性で30%,女性で35を超えている状況です.

BMI

25<

30<

日本 男性

30%

3.8%

日本 女性

20%

3.2%

米国 男性

70%

30%

米国 女性

60%

35%

男性の肥満度が増加してきているのは主に高脂肪食の摂取が多くなっていることと,運動あるいは活動度の低下がベースにあると考えられ,女性の肥満度が減少してきているのは,特に若い世代や中年の世代において体形に対する意識の変化からやせに対する志向が高まり,肥満者の割合の低下につながっていると分析されています.

肥満症の治療

日本肥満学会は肥満症の治療法として食事療法,運動療法,行動療法,薬物療法,外科療法の5 つ提示し,特に行動療法的な手法を取り入れることを提案しています.

27 回日本肥満学会で「神戸宣言2006」を発表し,そのなかで3kg の減量,3cm のウエスト周囲長の短縮を実現するサンサン運動を提案しました.

最近,低炭水化物食を摂取した場合に体重減少がみられるというデータが示されることが多くなりました。エビデンスはまだ十分ではありませんので,現時点で低炭水化物食が良いと言い切るわけにはいかないと思います.

 

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わが国では生活習慣病の予防対策のために,肥満の程度を考慮するのではなく,肥満の判定基準を欧米よりも下に広げ,その枠のなかで医学的な観点から減量治療の必要な場合を肥満「症」と診断し,疾患として捉えるという考え方が生まれたのである.

医学的な目的ではない減量が正当化されてしまわないためにもきわめて重要である.特に女性においては,美容目的の減量志向がきわめて強く,それに便乗した営利目的の減量治療が医療として悪用される危険性が大きい。

基本的にはBMI 25kg/m2 以上で肥満と判定されたなかで,基準になる11 の病態のいずれ1 つでもあれば,肥満症と診断するものともう1 つのアプローチとして内臓脂肪量をCTで測定し,内臓脂肪型肥満と判定すると直ちに肥満症と診断するというものである.

わが国における内臓脂肪の量的判定は,臍高レベルでの腹部CT 断面像で内臓脂肪面積が100cm2 を基準として,それを超えれば内臓脂肪過剰蓄積ということになっている

内臓脂肪面積が100cm2 に相当する値が男性85cm,女性90cm である

内臓脂肪型肥満イコール肥満症と診断できる理由は,内臓脂肪面積100cm2 を超えた症例の95以上に,高血糖,脂質異常,脂肪肝などの肥満症の診断基準に挙げた病態を有している

また内臓脂肪はエネルギー備蓄臓器としては皮下脂肪に比べて,きわめてダイナミックで,エネルギーが過剰に入ってくればすみやかに脂肪細胞内に中性脂肪として備蓄し,また運動時や空腹時には皮下脂肪よりもすみやかに脂肪分解を行い,遊離脂肪酸(FFA)とグリセロールを放出する.その循環系は門脈によって肝臓と直接つながり,脂質合成,糖新生に大きな影響をもたらしている

 

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「肥満」は脂肪組織が過剰に蓄積した状態であるが,「肥満症」は肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか,その合併が予測される場合で,医学的に減量を必要とする病態である.

 

BMI による「肥満」判定

実際の日常診療においては,身長と体重から簡便に計算が可能であり,脂肪量をよく反映するbody mass indexBMI)=体重(kg÷[身長(m)]2 が用いられる.

欧米ではBMI 30kg/m2 以上がobesity(肥満),BMI 25kg/m2 以上30kg/m2 未満はoverweight(過体重)と称する.

しかしわが国においては,BMI 25kg/m2 以上の場合を肥満と定義している(表1

 

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肥満症の診断基準に必須な合併症には耐糖能障害,脂質異常症,高血圧,高尿酸血症・痛風,冠動脈疾患,脳梗塞,脂肪肝,月経異常,妊娠合併症,睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群,整形外科的疾患,肥満関連腎臓病があり,これらを合併した肥満は肥満症と診断される.

 

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肥満度の指標として,国際的に体格指数(body mass index ; BMI)が汎用されている.

わが国では,BMI 18.5kg/m2 以上25kg/m2 満を普通の体重とし,特にBMI 22kg/m2 を標準体重と呼ぶ.また,BMI 25kg/m2 以上は肥満と判定する.より詳細に肥満を4 段階に分け,

肥満1 度はBMI 25kg/m2 以上30kg/m2 未満,

肥満2 度はBMI 30kg/m2 以上35kg/m2 未満,

肥満3 度はBMI 35kg/m2 以上40kg/m2 未満,

肥満4 度はBMI 40kg/m2 以上と定義している

これに対して,世界保健機関(World HealthOrganization ; WHO)ではBMI 25kg/m2 以上 30kg/m2 未満をoverweight (過体重),BMI 30kg/m2 以上をobesity(肥満)と定義している.海外のデータをみる際には,一般にobesityは BMI 25kg/m2 以上ではなく,BMI 30kg/m2以上を指すという点に留意する必要がある.

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1 に示すようにわが国におけるBMI 25kg/m2 以上の成人の割合は,男性ではほぼ一貫して増加傾向にあるのに対して女性では横這いで推移し,特に女性の40 歳代以下の年齢層では平均BMI むしろ減少傾向にある.日本人女性におけるこのような現象は,国際的には特異である.WHO の報告によれば,2008 年の時点で,全世界の成人の35BMI 25kg/m2 以上であると推計され,明らかな男女差はない(男性34%,女性35%).

 

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国際的にみてわが国の肥満度は低いといえる

 

 

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野生動物は必要以上に摂食することはなく,肥満は存在しないのが通常である.しかし,ヒトにおいては肥満者が増加している

生体でのエネルギー収支を考えると,消費は基礎代謝で6 割,運動3 割,熱産生で1 割が使用され,エネルギーの摂取は食事や間食を含めた経口摂取がすべてである.エネルギー摂取が消費を上回れば,余ったエネルギーは脂肪として蓄積され,内臓脂肪,脂肪肝,脂肪筋および皮下脂肪が増加して肥満となる.一旦蓄積された過剰な脂肪を減らすためにはエネルギー摂取を減らすか,運動を増やすしかないが,前記のような割合から考えても摂食を減らすほうがより効率的である.しかし現実的には減量は容易ではなく,そこには安価でおいしい食物が24 時間いつでも簡単に手に入る現在の社会状況と,ヒトにおける複雑な摂食調節のメカニズムが背景にある.

食欲は視床下部が中心となり,末梢臓器(消化管,肝臓,膵臓,脂肪組織,筋肉)からの栄養素,エネルギー代謝状態,消化管ペプチド,アディポサイトカインなどのシグナル,および視覚,嗅覚,味覚,食後の快感や満足感などを含めた大脳辺縁系や大脳新皮質などの上位中枢からの情報が統合されて制御されている

脳幹部では延髄孤束核に消化管からの神経線維,および第7910 脳神経に含まれる味覚線維が終止しており,食事に伴う胃の機械受容器を介する進展刺激,食物やその代謝産物が刺激となり,消化管から分泌されるグレリン,コレシストキニン,peptide YYPYY),glucagonlike

peptide-1GLP-1)といった消化管ペプチド,肝臓のグルコースセンサーで検出される代謝情報などが迷走神経求心線維を介して伝達されている.脳幹部で神経線維を乗り換えて視床下部や大脳皮質などに情報が伝達され,他の情報と共に統合処理される

近年,腸内細菌叢と肥満の関係が多く報告されるようになった.

 

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 日本では,食生活の欧米化,交通機関の発達による運動不足が原因で肥満や生活習慣病が高頻度で認められる.また,高齢化率も上昇し,肥満や生活習慣病患者数も増加している(図1).

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1981 年には,Rudermann らが正常体重でも肥満の人と同様に心血管疾患を合併しやすい群が存在し,高インスリン血症と脂肪細胞の肥大化が特徴であることを報告した

1991 年,DeFronzo Ferrannini syndrome X と同様な症状をインスリン抵抗性症候群と命名,

1993 年,Hotamisligil が肥満とインスリン抵抗性の間に炎症が介在することを示した.

これらを受けて,1998 年,世界保健機関World Health Organization ; WHO)がメタボリックシンドロームと名称を統一し,診断基準を発表した.

肥満は,生活習慣を起因として生じ,主に内臓脂肪蓄積を伴うことにより多様な合併症を引き起こすことが分かってきた

 

 

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わが国において,1980 年ごろから2000 年にかけて,子どもの肥満頻度が急激に増加した.

この肥満の増加は,欧米諸国をはじめとして,一部の地域を除き,世界的な現象である.

肥満の行動療法

外来診療で時間をかけて指導を行っても,なかなか肥満の改善は難しい.行動療法の手法は,肥満の子どもや親に対して指導・支援を行ううえで非常に参考になる8).行動技法として,セルフモニタリング(自己監視法)が最も重要である.毎日,家庭で体重を測定し,記録してもらう.毎日朝と夜の2 回測定できれば最も良いが,1 回でもよい.測定するだけでなく,手帳やカレンダーに記録することが重要である.いきなり無理な目標設定はせず,本人にできそうなことを選ばせる.体重を維持できて,外来で医師や看護師など周りの人に褒められるとうれしいのも自然の感情である.賞賛と快感により行動が促進されることをオペラント強化という.行動療法では,親を共同治療者として教育すること(親訓練)を重視している.もし,親も肥満であれば,子どもよりも親のほうがよほど心筋梗塞や2 型糖尿病のリスクが高く,肥満改善の緊急性が高い.子どもと同時に親への指導・支援が必要となる.「家族ぐるみの対応」が重要である.

 

 

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肥満は,排卵障害と月経異常をもたらし,妊孕力低下の原因となる.妊娠中は肥満度と共に妊娠高血圧症候群や糖尿病の合併頻度が増加し,さらに帝王切開率も増加する.

 

 

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肥満症において血圧,血糖,脂質,肝機能等の検査値を改善するには,3以上の体重減量が有効であることを示した.欧米の生活習慣介入研究では一時的には5以上の体重減量を達成しているが,わが国ではより緩やかな目標でもよいことが示唆された.

 

 

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肥満症に対するさまざまな食事療法

1.エネルギー制限食

肥満(症)は基本的に摂取エネルギーが消費エネルギーに対して相対的に過剰になっていることによって生じるものと考えられる.よって,その食事療法はエネルギー制限が原則である(図1

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日本肥満症治療学会の『肥満症の総合的治療ガイド』では,一般食で行う場合,筋肉量を減らさないようタンパク質を確保しながらエネルギー制限をする必要性が述べられている.また,最近発表された海外のガイドラインとして,スコットランド大学間ガイドラインネットワークのガイドラインが挙げられるが,このガイドラインでも,食事療法としてエネルギー制限を推奨している.さらに,最近改訂されたアメリカ糖尿病学会(American Diabetes Association ;ADA)の食事療法に関する声明においても,最初に減量のための方策としてエネルギー制限が推奨されている

一般食における実際のエネルギー制限の方法として,日本肥満症治療学会は以下のような指示をしている.

125kg/m2BMI30kg/m2 の場合,25kcal/kg×標準体重(1,0001,800kcal/日)

230kg/m2BMI の場合,20kcal/kg×標準体重(1,0001,400kcal/日)

335kg/m2BMI かつ急速な減量を要する場合,600kcal/

また,スコットランドのガイドラインでは,必要エネルギーから600kcal/日を差し引いたエネルギー処方にすることを推奨している.一方で,ADA の声明では,さまざまな文献からは画一的なエネルギー処方をすることはできず,エネルギー設定の方法がどのような方法であれ,エネルギー制限になっていることが大切であると述べている

このようなエネルギー制限食の最大の問題点は,遵守度,継続性である

2.糖質制限食

エネルギー制限食の遵守困難者に対する副次的食事法として注目を集めているのが糖質制限食である.エネルギー無制限の糖質制限食(初期を除いて1 日糖質摂取120g 以下)により,低脂質のエネルギー制限食よりも体重減量に成功したという報告がある(図2).ここで注目されるべきは,エネルギー無制限で空腹時に間食を許容していたにもかかわらず,一定期間最もエネルギー制限に成功していたのが糖質制限食であったということである.すなわち,糖質制限食という食事指導は,エネルギーに着目しないエネルギー制限法という見方もできるかもしれない.

ただし,この糖質制限食の問題点として,定義が定まっていないことと共に,極端な糖質制限食(すなわち,これも定義が定まっていない)においては脂質プロファイルの悪化が報告されていることを挙げなければならない.2013 3 月の日本糖尿病学会の日本人の糖尿病の食事療法に関する提言に記載されているように,極端な糖質制限は現時点では避けておくべきと考えられる

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3.それ以外の食事法

わが国で減量法として一般的に知られているのは,エネルギー制限食と糖質制限食であるが,短期の減量導入法としてエネルギー制限食の究極的な形である液体フォーミュラを用いたVLCDvery low-calorie diet1 日の摂取エネルギーを500kcal 程度未満に抑制し,タンパク質やビタミン・ミネラルを液体で補充する減量法)も知られている.また,世界的にはほかにもさまざまな食事法が提案・実施されている低脂質食,地中海食,ベジタリアン食,DASH食,Ornish 食,Zone 食などが挙げられるが,いずれにせよ遵守度こそが最も大切であり(図311),1 つの食事法が他の食事法に比較して優っているとは結論付けられないのが現状であろう

 

 

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1.減量,代謝指標の改善と運動

肥満の合併症の改善は,体重や内臓脂肪の減少率に依存する.510の減量のもたらす効果は,食事,運動の介入手段で明らかな差はなく,同じエネルギー量を食事で制限した場合と運動で消費した場合,内臓脂肪の減少の程度も差はない.また,内臓脂肪の減少率が同じならば代謝指標の改善効果も差がない

米国心臓協会,米国心臓病学会,北米肥満学会の最新の肥満治療指針4)によれば,35減量で心血管病危険因子の一部は臨床的に意味のある改善をみせるが,より大きな減量はさらに効果が大きく,6 か月で510の減量を推奨している.また,日本肥満学会の肥満症治療ガイドライン5)はBMI 30 未満で5%,BMI 30 上で510の減量を指示している.しかし,低エネルギー食の減量効果は,上記の指針4)によれば6 か月で412kg413%)減と最大となるが,その後はリバウンドし,1 年で410kg410%)減,2 年で34kg34%)減にとどまる.食事療法の減量維持の困難さが示唆される.

食事療法で6 か月後には比較的大きな減量が達成されるにもかかわらず,その後リバウンドして2 年後は34kg 減になるということは,せいぜい150200kcal のエネルギー制限しか長期には維持できないことを意味する.食事制限の緩みで生じるこの体重リバウンドは,体重増加によってエネルギー出納のバランスをとる機序とみることもできる.運動でこのリバウンドを防ぐには,体重1kg 当たり50kcal (週350kcal)の運動量が必要となる.

2.運動処方

1)運動量(エネルギー消費量)

肥満症の運動療法の特徴は,エネルギー消費量が多いことにある.一般的な健康目的では,中強度の運動を1 30 分,ほぼ毎日(週5 日)行うことが推奨され,エネルギー消費量は週7001,000kcal 程度である.その減量効果,合併症の改善効果は食事療法に比べて小さく,減量維持にも不十分なのはすでにみたとおりである.体重減少は中強度で週150 分以下ではわずか,週>150 分で23kg,週225420 57.5kg とされ,減量後の体重維持には週200300 分(60 ×5 日)の運動が推奨される8).運動習慣のない者が当初からこの運動量をこなすのは困難なので,当初は1 日合計30 分程度の中強度の運動から始めることになる.導入レベルの活動量でも種々の健康上のメリットはあるが,運動のメリットを十分得るには,長期間かけて徐々に高い活動レベルへ増すことが重要である.

4)運動の種類

外来で指示する最も一般的な運動は速足のウォーキングである.整形外科的な問題がある者では水中ウォーキングが有効であるが,運動の機会が増えにくく,水中では体重も軽くなるため,エネルギー消費が少ないのが難点である.自転車エルゴメータもエネルギー消費量はやはり少なく,肥満者に多い変形性膝関節症の合併では,膝痛で実施が困難なこともある.また,肥満者ではサドルが尻に食い込むのでクッションが必要である.

ウォーキングは運動経験のない肥満者にとって当初は良好な負荷となるが,3 か月程度で身体が慣れ,半年以降でドロップアウトが起こりやすい.これは,身体的スキルが運動課題を上回ることによる退屈が原因と考えられる.運動継続のためには,後述する内発的動機付けを喚起したり,身体能力の向上に合わせて課題がレベルアップする運動プログラムの工夫が必要である.

 

運動それ自体の楽しさや遊びの要素,技術向上や進歩による有能感(その時点の習熟度よりも若干高いレベルの運動課題が最も楽しい),さらに運動を通じた他者とのかかわりの3 点を念頭に置いて指導することが運動の長期継続にきわめて重要である.

 

 

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(省略)

 

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肥満症治療の原則は食事療法などの内科的治療であるが,高度肥満症(BMI35kg/m2)においてはその治療効果は限られており,近年,世界中で外科治療が広く行われている.

 

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肥満には遺伝的,生理生化学的要因のほか,心理社会的要因も大きく関与している.したがって,肥満症の治療にあたっては,単に減量だけ行っても不成功に終わることがほとんどであり,心理社会的問題にも十分焦点をあてたメンタルケアが必須となる.

欧米では,食事・運動療法に加えて,認知行動療法を中心としたライフスタイル修正療法lifestyle modification)が肥満症治療の主流となって久しいが,本邦ではまだ一般的ではない.

われわれが行っている肥満症治療では,食事・運動療法に加えて,認知行動療法を中心としたストレスマネジメントに多くの時間を割いている

 

治療に難渋する肥満症患者とメンタルケア

1.治療動機が乏しい

治療動機が乏しい患者は,治療者がいくら減量の必要性を説いても,その言葉は耳の中を右から左に通り抜けてしまい,いつまで経っても実践に結び付くことはない.「今困っていない」,「減量は無理」,「運動は苦手」等々の発言があり,減量のメリットを十分理解していないこともある.治療動機を上げていく際の前提として,まず治療者が勝手に患者の思いを推測して,上から目線で叱責(どうしてできないのか),説教(~しなさい),脅迫(~しないと大変なことになる)というパターンに陥らないことである.それはかえって患者の心を閉ざしてしまう結果になる.

2.言い訳が多い

患者が減量の必要性は認識していても,「お土産をもらって自分は食べたくなかったが,だれも食べないので1 人で食べた」,「職場のおやつタイムで自分だけ食べないわけにはいかない」,「小食なのに体重が減らない」といったさまざまな言い訳をする.言い訳の多い患者は,減量の効果を上げるに至らず,治療者も腹が立ってつい怒ってしまいがちであるが,逆効果である.

3.解決がすぐには困難な心理社会的問題を抱えている

4.リバウンドを繰り返す

外科治療を除く肥満症治療は,短期的には良い成績でも,35 年の間にはほとんどが再増加し元の体重に戻る,すなわちリバウンドするといわれる.したがって,リバウンドを繰り返していたとしてもそれを否定的に評価するのは早計である.過去の経験を生かしながら,リバウンドを最小限にするにはどうしたらよいかという視点を肥満症治療のなかに組み込んでいくことが大切である

5.高度肥満症

高度肥満症患者(BMI35kg/m2)はしばしば重大な心理社会的問題を抱え,精神疾患を併存している者も少なくない.成人以前発症の高度肥満症では,周囲の偏見や差別に心を傷付けられ過度に防衛的になり,自己評価も低下しているケースが多い.また高度肥満症であるがゆえに,少しくらいの減量では満足しない傾向がある.減量へ立ち向かおうとする気持ちを尊重しながら,実行できたことを評価し,心理社会的な問題についても介入していく.

肥満症は合併・併存疾患を含めると,多領域にまたがる複雑な疾患である.肥満症患者がもつ心理社会的問題もさまざまである.現在の肥満症治療は減量後の体重をいかにして維持して いくか,すなわちリバウンドをいかにして防止するかが焦眉の課題となっている.それは単に栄養・代謝面だけでなく,メンタルケアを合わせた総合的な治療なくしては達成できないものである.したがって,肥満症治療では内科医(心療内科医を含む)を中心に,外科医,関連する専門科医,精神科医,管理栄養士,臨床心理士および看護師らからなるチームが結成されるべきである.そこでは,スタッフが相互に交流の場をもち,治療方針や意思を統一することが不可欠である.

 

 

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肥満のほとんどは多因子遺伝病タイプであり,ひとりひとりに複数の遺伝素因が重なり,さらに環境因子が加わる。

近年,「ゲノムワイド関連(相関)解析(genomewideassociation study ; GWAS)」と呼ばれる方法で,FTO をはじめ50 以上の遺伝因子が明らかになった.

しかしGWAS で得られる因子の単独での効果は弱く,肥満を生じるリスクは1.11.4 倍程度である.また現時点では,これらを合わせても肥満の遺伝素因の一部しか説明できない.いわゆる「肥満の遺伝子診断」を謳う検査が一部で行われているが,結果の解釈は慎重に行う必要がある.

 

 

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肥満は2 型糖尿病や動脈硬化性疾患のリスクとして重要なだけでなく,多くのがんのリスクを高める.国際がん研究機関(International Agencyfor Research on Cancer ; IARC)の報告では,食道腺がん,大腸がん,閉経後乳がん,子宮内膜がん,腎臓がんについては,肥満による罹患リスクの上昇が“確実”と判定された.

肥満の人は糖尿病予備群であると同時に“がん予備群”ともいえることを医療者が十分認識し,患者や一般に啓発していく必要があるといえよう.

 

 

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睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome ;SAS

肥満人口の増加に伴い,SAS の患者も増加してきた.

肥満患者に対しては,いびきや日中の眠気などがあるか問診し,SAS が疑われた場合は睡眠専門外来に紹介する.

 

 

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サルコペニアとは「加齢に伴う筋力の低下,または老化に伴う骨格筋筋肉量の減少」を指し,Rosenberg により提唱された比較的新しい造語である

サルコペニア肥満はBaumgartner 2000 年に提唱し,四肢骨格筋の萎縮と肥満を併せ持つケースを指す

 

 

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2 型糖尿病ではない高度肥満者にGLP-1 受容体作動薬リラグルチドを投与した臨床試験が海外で行われた。

食事・運動療法のみのプラセボ群と比較して,2.14.4kg の体重減少が認められた.体重が5以上減少した割合も高く,血圧や空腹時血糖値などの低下も認められ,対照薬として用いられた海外で使用されている抗肥満薬のオルリスタットより良好な成績を示した.

 

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